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<2006年11月>耐震偽装事件にみるガバナンスの必要性

 10月31日、東京地裁で、姉歯秀次元一級建築士が懲役5年、罰金180万円を求刑されたことが報じられた。翌11月1日には、元木村建設支店長篠塚明被告に懲役1年、執行猶予3年の判決が言い渡された。約1年間にわたり、日本中を文字通り震撼(しんかん)させた耐震偽装事件は、いよいよ重大局面を迎えるに至ったのである。
耐震偽装事件の再発を防ぐにはどうすれば良いのか。一部の関係者に限定されたきわめて特殊な事件に過ぎず今後は起こり得ないという意見、民間の自主的な検査に委ねたが故に生じたものでありそもそも民に委ねるべきではないという意見、さまざまな見方があり得る。

 筆者はその両方に与(くみ)しない。まず、民に任せるべきでないという主張は、公民連携事業で事故が起きるたびに指摘されることであるが(例えば、ふじみ野市民プールでの女児死亡事故、仙台のスポパーク松森PFI事業の天井落下事故など)根拠がない。大半の民間の活動は不都合なく行われているからである。

 被告の個人的問題と片付けるにも無理がある。多くの関係者が複雑に絡み合っている今回のケースで、問題のある関係者がたまたま複数存在したというのは説得力がない。

 官(耐震規制を制定し監視する)が、民(建築主や民間検査機関)の活動に問題が起きないように指導・監視し、問題が発生したときには直ちに是正すべきだったにもかかわらず対応し得なかったという問題の所在は、社会の仕組みや業界の慣行に求められるのではないだろうか。

 具体的には二つの大きな論点がある。一つは、建設、設計、構造計算をそれぞれの別の企業や事務所が担う複層的な構造になっており、監視の目が行き届かず現場の不正発生を抑止できなかった点である。もう一つは、不正を監視し制裁を課す役割を担うべき行政は、実務をすべて民間検査機関に委ねるとともに、民間検査機関の報酬は行政ではなく民によって支払われるという点である。

 以上の結果、官は、民を監視、統治(ガバナンス)することができなかったのではないか。今後は、表面化した事件の当事者だけを罰することに加えて、ガバナンスが実効性を持つよう工夫することであり、具体的な知恵が必要とされる。(これには、経済学のプリンシパル・エージェント理論やプロジェクト・ファイナンスのストラクチャリング手法が応用できる)。

 ガバナンスを重視する発想は、現在、国を含めて多くの人の理解を得るところになってきていると思う。国土交通省は10月20日、「建築士事務所や建設業者の処分歴などをデータベース化し、インターネット上で公開するため、検討に着手した」とされている。また、政府は10月23日の事務次官会議で「構造設計と設備設計で一級建築士の認定制度を創設するほか、すべての建築士に定期的な講習を義務付けること、分譲マンションの設計や工事は、下請け業者への丸投げを禁止することが柱」となる法改正案が認められている。

 もちろん、自分の生命と財産を守ることは個人の責務でもある。法令順守をする信頼性の高い業者を選ぶとともに、施工過程でも監視の目を怠らないという自助努力が必要なのではないだろうか。
 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)