<2007年11月>“北の屋台”に見る地域プロジェクト成功のポイント
空いている駐車場を活用し、全国の屋台村の先駆けとなった“北の屋台”(北海道帯広市)がリニューアルオープンした(11月19日iJAMP)。その特徴は、「飲食店経営を希望する若者や定年退職者らに原則1期3年契約で起業の機会を提供」(同)する起業塾にある。この仕組みにより、店を出したくても機会に恵まれない起業希望者が全国から集まってくるようになった。 起業希望者は、最初の1年間”北の屋台”を運営する組合に雇用され給与を支給される。創業リスクを負ってもらい、お客様をつかみ商売のこつを覚える時間が確保できるのである。順調にいけば、2年目に自立して北の屋台の中に独立店舗を開設する。そして、いずれは市内の商店街で店舗を開くことが期待される。「短期的には屋台の集合体が空き地を埋め、長期的には屋台の卒業生が空き店舗を埋める。北の屋台は二重の効果を狙った活性化策なのだ」という地域再生戦略が”北の屋台”のホームページで紹介されている。 もちろん、店が失敗すれば給与も水泡に帰す。組合にもリスクはあるのだ。だが、逆に優れた商店主を育てれば多くのお客さんが来訪し、お金を落としてくれる。その効果は、他の店も含めた商店街全体、ひいては地域全体の活性化につながる。評判を聞きつけた観光客が増える。にぎわいを取り戻した町の未来に希望を見いだし、地元の若者の定着率も高まるだろう。この商店主育成システムは、リスクを積極的に取りながらリターンの道筋を正確に描いているのである。最先端のベンチャーキャピタルばりの斬新なアイデアと成果には敬服するばかりである。 地方圏では、ともすれば、市場規模の小ささゆえに地域間競争を最初からあきらめる声が出がちである。自らあきらめる地域にはチャンスも訪れない。“北の屋台”は、マイナス思考に陥る前に先になすべきことがあることを、身をもって教えてくれているのである。 いずれにせよ、手軽に食の機会を提供するプロジェクトは、地域活性化の可能性を秘めていることは間違いない。 3年前、開業直後の米国ニューヨーク市の「タイム・ワーナー・センター」ビルを訪れたことがある。地下1階の生鮮食料品、総菜の”ホールフーズ”のフードコートには驚かされた。インド料理バーや日本料理バーなど店内の商品を何でも持ち込み、自由に食事することができる。ブロードウェーの劇場に行く前に軽く食事を済ませておくという新しいライフスタイルが始まったと評価されていた。 高知市のひろめ市場は、食器共用などフードコート形式で運営している。かつおのたたきをつまみにビールを飲む中年男性と同じテーブルで女子学生が本を広げて宿題をしている光景は、地域ならではのコミュニティーの場として機能していることを思わせた。 広島市の京橋川沿いの公園には、かき料理など4店のオープンカフェが開設され話題を呼んでいる。河川区域かつ公園というエリアを規制緩和の組み合わせで、魅力的な空間として再生した。その結果、従来、川に背を向けていた近隣のホテルやマンションでも川に面する店を開設するなど波及効果が既に表れている。 こうした新しい知恵が次々に起きることを期待したい。食を通じた仕掛けは、いかなる地域でも通用するネタの宝庫なのかもしれない。 |
著者:根本 祐二(公民連携専攻長) |