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<2008年9月>政治リスクと民間提案=首相辞任がもたらす示唆

 本稿執筆準備中に福田康夫首相辞任のニュースが舞い込んだ。今回はこのニュースを取り上げたい。既に、政治日程はポスト福田に向かって動いている。だが、ニュースを聞いたその瞬間に頭に浮かんだのは、筆者の専門である公民連携でしばしば指摘される“政治リスク”という用語である。

 公民連携は、政府(国や自治体)が決定する政策にそって、民間企業や非営利団体が公共事業やサービスを実施するものである。“政治リスク”とは、民間が実施しているさなかに政府のトップや議会の構成が変わり、方針が変更されて民間の行動が影響を受けることを指す。自治体の場合、首長の交代で方針が変わって民間企業が困っているという話はしばしば耳にする。

 首相の方針が、個別の企業行動にそれほど影響を与えるだろうかと思われるかもしれないが、“成長か改革か”という基本的な路線は言うに及ばず、年金、教育、医療、中小企業対策、消費者行政など、意外なほど、民間企業は関心を抱き行動の根拠にしている。

 将来の政策が安定的に予見できれば、設備投資や人材育成など長期的な行動を取ることができる。だが、1年で首相が変わり政策が次々に変わるかもしれないならば、民間もそれを前提に短期的な視点での行動を取らざるを得なくなる。“政治リスク”の強弱は、日本という市場が長期的な視野に立った行動をとれる魅力があるのかどうかに直結する、非常に大きな要素なのである。

 公民連携の分野“政治リスク”を減少させるアイデアの一つが民間提案である。民間に、市場のニーズに裏打ちされた経済合理性の高い提案を行ってもらうことで、将来見通しがトップの人的要素から切り離され、事実上“政治リスク”を封じ込める効果を持つ。

 8月上旬より、横浜市新市庁舎の候補地・手法のアイデアに関する民間提案募集が開始された。JR関内駅前の老朽化した市庁舎を更新するため、候補地(現在地での建て替え、近隣の別の用地での建設、両土地にまたがる分棟方式)および手法(公共事業、PFI、民間ビルへのテナントとしての入居など)を限定しないで自由に提案できることが特徴である。

 民間提案で常に問題になるのは、提案者の動機付けである。せっかく良いアイデアを出しても、自分の仕事になる可能性が高くならなければ、提案する意味がないからである。横浜市のケースでは、アイデア募集の参加を事業者選定公募への参加資格要件とした点が特徴である。提案者にとっては非常に高いハードルだが、アイデアのない事業者が漁夫の利を得る可能性は完全に排除できる。市場性豊かな立地と、巨大プロジェクトという魅力を背景にしてはいるものの、実に大胆な方法であることは間違いない。

 民間提案手法として今世界で注目されている方法が、米国バージニア州法のPPEA(Public Private Educational Facilities Infrastructure Act)である。同法は、学校、病院、庁舎、駐車場などのすべてのインフラ分野で、民間企業が何を選ぶかも含めて自由に提案することができる。事業者選定段階では再度公募されるが、最初の提案者の枠組みに沿って公募されるため、そのまま選定される可能性が非常に高いとされている。この手法が有効に機能している証拠として、提案時点で上限5万ドルの提案料の納入が必要であるにもかかわらず、2002年に施行後、既に100件の実績が上がっていることを指摘できる。
 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)