1. 東洋大学PPPポータル
  2. 2007年度
  3. <2010年01月>新成長戦略の「新」たるゆえんは何か=ストック型社会の知恵で豊かさの追求を

<2010年01月>新成長戦略の「新」たるゆえんは何か=ストック型社会の知恵で豊かさの追求を

 2009年末、鳩山政権の新成長戦略基本方針が閣議決定された。「2020年までに環境、健康、観光の3分野で100兆円超の需要を創造して400万人以上の新規雇用を創出する目標を提示」している。今後、「目標達成に必要な施策の具体化作業を進め、実行計画となる行程表を作成。複数年度予算を視野に入れた中期財政フレームの策定と合わせて2010年6月をめどに新戦略をまとめる」方針(同)とされている。

 成長戦略の策定を、長引く深刻な不況からの脱出の好機ととらえて、ここぞとばかり財政出動を期待する声がある。事業仕分けに象徴される厳しいムダづかいの排除は一段落させて、豊かにする方向にカジを取るべきだとの意見も聞こえてくる。

 だが、今までの成長の概念とは明らかに前提が違う。人口と環境の制約である。絶対的な人口減少時代が到来し、二酸化炭素を大幅に削減する必要がある以上、今までのように、成長を公共投資、民間設備投資、輸出というフローの増加に頼る訳には行かない。「環境、健康、観光の3分野で100兆円超の需要」という言葉の心地よさにほっと一息ついている場合ではないのである。

 右肩上がりの発想では成長できない中での成長戦略はどうすれば良いか。PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)の観点から一つアイディアがある。それはフローではなくストックを生かすことだ。

 わが国の名目GDPは500兆円だが、公共施設、インフラ、民間企業資本ストック、民間住宅は不動産としてみただけでも2300兆円(国土交通省推計)に達している。個人金融資産の1400兆円(日銀統計)も貴重なストックである。このように、わが国も豊かなストックが存在する時期に入った。実物資産の資産効率と金融資産の利回りを0.1%引き上げることは、名目GDPの0.7%引き上げに相当する。ストックを刺激することはこうした効果をもたらすのである。

 まず、実物資産のストックは更新が必要だ。第2次大戦後、高度成長期、バブル期にかけて投資された資産の多くは老朽化して更新を待っている。これをそのまま更新するのではなく、現在のニーズに合わせて用途を変える、あるいは今後も柔軟に変えられるようにする。数十年ではなく数百年使えるように長寿命化する。ライフサイクルコストを考えて設計し、丁寧なメンテナンスを実施する。更新しない資産をどう決めるか、どのようにスクラップし、売却するのかあるいは自然に戻すのかを考える。社会もしくは地域全体としての費用対効果を最大化するシステムを考える。今までにない新たな建設業、不動産業、サービス業、情報通信業、運輸業、製造業が生み出されるはずだ。

 更新にはかなりの資金が必要だが、ストック型社会にスムーズに移行して経済が安定すれば、公共資産であれ民間資産であれ、ニーズがある限り長期的には返済可能である。その資金調達の源泉が個人金融資産だ。社会的に有意義な分野に投資したい個人は少なくないが、今はその向け先がない。資金調達の仕組みが開発されれば一斉に流れ出すことも決して夢ではない。個人金融資産を生かした新しい金融産業が誕生するのだ。

 こうして、ストック型の発想はすべての産業を変える。環境制約の解決にも貢献できる。日本人得意のきめ細かな工夫の積み重ねは立派な輸出産業になるだろう。作って終わりではなく維持運営に力点が移るので、中小企業の仕事になり地域経済を活性化させる。

 反面、フロー型を前提にしていた民間産業はビジネスモデルを変える必要がある。政府は、できるだけ自身のストックを減らし民間ストックを有効に活用する方向に切り替えるとともに、公共市場の開放、規制緩和、税制改革などで民間産業のビジネスモデル改革を手助けする大きな役割を担う。フロー型の仕事がないといって、国や自治体が国民負担で支援するのは間違いだ。

 鳩山首相は、今までの成長戦略は「公共事業依存や市場原理主義の呪縛(じゅばく)で失敗した」(09年12月30日iJAMP)と指摘している。この評価の当否は別として、すでにわれわれは、市場と政府のいずれかに一方的に依存することの限界を認識している。新成長戦略には、双方が責任を持って役割を分担するPPPの発想を導入することが必要不可欠だろう。

 幸いにして新成長戦略の取りまとめにはまだ時間がある。英知をしぼって、従来とは異なる成長戦略の具体策を提示していただきたい。国民として協力は惜しまない。
 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)