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<2010年03月>「成長」のカギを握る三つの方策

 成長戦略の議論が盛んになってきた。国であれ地方であれ、与党であれ野党であれ、すべての政治家と官僚にとって成長の道を探すのは喫緊の仕事である。このテーマに関しては、前々回のオピニオン(1月7日)で、「社会資本ストックを更新・維持する産業を成長産業として位置づけ、必要な資金を1400兆円の個人金融資産から還流させる」戦略を提案した。今回は、もう一歩進めて具体的な方法論に展開したい。

 第一はデータの把握である。具体的には、神奈川県藤沢市や千葉県習志野市で導入された公共施設マネジメント白書の作成と活用を提案したい。老朽化についての理解は進んできており、国の予算も充実してきて大丈夫と安心の声も聞こえてくる。だが、総額いくらの更新投資負担が生じるかの金額を把握せずに、どうやって大丈夫と判断できるのだろう。

 神奈川県藤沢市では、現在のハコものをすべて更新しようとすると近年の公共投資(普通建設事業費)の1.3倍の規模を今後20年間続ける必要があることが示されている。高齢化で歳入減少が予想され、扶助費や公債費など減らせない費目が多い中で、今まで以上の予算を公共投資に割かなければならないのである。

 さらに、橋りょうや下水道で同じ計算をするとそれぞれ4~7倍の財源が必要と試算される。千葉県習志野市ではハコもの更新投資が1.9倍と試算されている。まず、危機意識を持ち、データに基づいた総合的かつ長期的な社会資本更新計画を作成する必要があるのである。

 第二は民間の知恵を活用した更新投資の実現である。更新は、

 長寿命化、環境・エネルギー性能向上などの技術面のアイデア
 機能転換、複合化向上などのシステム面のアイデア
 事業運営、メンテナンス、付帯事業などの運営面のアイデア
 余剰空間の活用などの不動産面のアイデア、
 投資資金と社会的利益(税収、受益者負担金など)の時間差を埋めるファイナンス面のアイデアなどの複合技である。民間の知恵を全面的に入れなければ乗り切れるはずがない。
 この点に関しては、米国バージニア州のPPEA (Public Private Educational Facilities and Infrastructure Act)が参考になる。同法は、民間提案を前提にした新たな社会資本整備手法であり、  その名が示す教育施設以外にも広汎な分野で用いられ、2002年の法施行以降150件の実績をあげている注目の手法である。

 同法の特徴である「プロセスを明確化してたなざらしを防ぐこと」、「提案者の知的所有権を保護すること」、「優れたアイデアを出すことのインセンティブを付与すること」などは、わが国でも民間資金活用による社会資本整備(PFI)法など現行法の一部手直しによって十分に導入可能である。

 第三が規律ある資金調達である。更新を要する社会資本として認められたものは、受益者負担型でなくても将来的には税収により返済されることが期待されるため、民間長期金融の対象になる。だが、単純に、自治体の一般会計からの返済では財政規律が働かず、結果的に不必要または過大な投資が行われる恐れがある。

 すでに、民間では大規模プロジェクトの資金調達は親会社の一般財源に遡及(そきゅう)しないノンリコース型が主流となり、収入を生み出す力の弱いプロジェクトは自動的に排除される仕組みとなっている。この規律ある資金調達の考え方を社会資本更新にも導入することで、長期的な財政再建の道筋も付く。

 具体的には、

 自治体・民間企業が発行する債券の返済がそのプロジェクトからの収入に限定されているレベニュー債(Revenue bond)
 プロジェクトの効果により発生した税収を返済財源とする債券を発行し調達し将来税収が増加した段階で返済する、TIF(Tax Increment Financing)
 一般道路など利用料金がない場合でも社会的増加利益を定量化して政府が民間に支払うシャドートール(Shadow tolll)など、海外で一般的に用いられている方策の導入が有効である。
 社会資本データの把握、民間による自由な提案、規律ある資金調達は、長期にわたって継続するきめ細かなノウハウの集合体であるため属地性が強く、地方の中小企業の仕事が増える。また、新しい公共の担い手であるNPO・NGOの役割強化にもつながる。世界的にも産業としては成立していないため輸出産業としても期待できる。これらを組み合わせて産業レベルに発展させることは成長戦略となると思う。
 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)