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<2010年04月>郵政改革には丁寧な説明と規律ある資金調達の導入を

 先週は、郵政改革の議論が閣内を二分して激しく行われた。改革の目的は、(1)ユニバーサルサービスとしての郵便、貯金、保険提供の制度的担保(2)税金を投入することなく、郵便局ネットワーク維持ができる仕組みづくり(3)ゆうちょ資金、かんぽ資金の有効活用の3点とされている(総務省資料)。そして、その手段が、(4)郵便貯金と簡易保険の限度額の引き上げである。

 政府としては、最終的に鳩山首相の決断により、原案の方向で進めることになった。その後、「駐日米大使と駐日欧州連合(EU)代表部大使が連名で、限度額の引き上げなどを実施すれば、世界貿易機関(WTO)の協定に違反する可能性があると警告する書簡を、官房長官ら4閣僚に対し送付していた」と判明した(4月1日iJAMP)。

 WTOの問題は別として、発案者の意図を推測すると、「税金を投入することなく(2)、ユニバーサルサービスを維持する(1)ために、郵便貯金と簡易保険の限度額を引き上げ(4)、より集まった資金を有効活用する(3)」と整理されよう。一見、理にかなっているようにみえるが問題がある。

 第一に、「ユニバーサルサービスの維持」から「限度額の引き上げ」に至る論理に飛躍があり、その間が詳しく語られていない。少なくとも、大多数の国民にとって理解できない。限度額の引き上げで集めた資金の運用益でサービスを維持するという意味なのか、それは妥当なのか、それ以外の方法と比べたメリット・デメリットは何か、引き上げの程度に過不足はないのか。まずは、国民に対する丁寧な説明が必要である。

 第二に、集まった資金が本当に有効に活用されるという保証がない。鳩山首相は3月30日の郵政改革に関する閣僚懇談会後、記者団に「国債の単なる引受機関になってはいけない。地域の活性化に資する機関でなければならない」と語っている(3月30日iJAMP)。

 地域活性化は重要だが、問題はそう簡単ではない。民間金融機関では資金を出せない案件を対象にするならば安全性を損ないかねない。安全性を重視するなら、わざわざ限度額を引き上げる必要もない。公共的なプロジェクトを確実に進めようと国や自治体が明示的あるいは暗黙に保証するなら、不必要または過大な投資を誘発するとともに、失敗する危険も大きくなる。限度額引き上げの前提として、これらの問題点を顕在化させないための具体的な枠組みの検討が必要である。

 この問題に関しては、筆者が提唱している規律ある資金調達の導入を改めて推奨したい(3月8日iJAMP)。規律ある資金調達とは、民間金融で行われているノンリコース・ファイナンス(親会社の一般財源に遡及=そきゅう=しない)を公的な金融に応用するものである。

 そもそも、公的プロジェクトでも、長期的収入を費用が上回れば民でもできるので官の出番はない。規律ある資金調達が意味を持つのは、事業主体にとっての収入は費用を下回っていても(あるいは収入がゼロであっても)、社会的な便益が費用を十分に上回る場合である。社会的な便益とは、税収、雇用増、交通の改善(移動時間の短縮、渋滞の解消など)などの効果である。普通、これらの社会的便益は事業主体の収入にはならないため実行されない。したがって、社会的便益を事業主体に還元することをあらかじめ約束することが必要となる。

 海外では、プロジェクトの効果により発生した税収を返済財源とする債券を発行して資金を調達し、将来税収が増加した段階で返済する、TIF(tax increment finance)がある。債券でなくても貸出金(ローン)でも良い。ノンリコース型なので、予定の効果が発揮されなければ投資を回収することができない。一方、事前に優先権が与えられるので、たとえその自治体が他のプロジェクトで失敗して支払い不能に陥っても優先的に回収することが可能だ。つまり、社会に役立つ成果を出すことで必ず報われ、最後は国が面倒を見てくれるから安全だというモラルのない資金の出し手は報われないという規律を導入するのだ。これによって、不必要あるいは過剰な投資を確実に避けることができる。財政難の中でも必要な公共投資を進めなければならないわが国にとっては、必須の手法と言えるだろう。

 ノンリコース型の発想は、まったくもしくはほとんど収入のない一般道路・橋梁(きょうりょう)、学校、庁舎、図書館などのハコものにも適用できる。社会的便益を定量化して政府が民間に支払うシャドートール(shadow toll)である。民はプロジェクトの当初に約束したサービス水準(例えば、365日安全・快適に通行できる橋)を達成すれば政府から支払いを受けることができる。もし、維持補修に失敗して交通渋滞や事故が発生すれば減額されるので、必死に水準の達成に努める。

 こうした努力により効率的かつ質の良い公共サービスが維持される。本欄で再三指摘しているように、わが国の社会資本の投資不足は深刻である。規律ある資金調達の導入は、郵貯・簡保資金の有効活用以前の問題として、そもそも必要不可欠なのである。
 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)