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<2010年05月>毎年8兆円の財政負担=社会資本老朽化のインパクト

 本欄で繰り返し指摘している通り、わが国の社会資本の老朽化は著しい。少子高齢化による税収減少や扶助費の増大を考えるまでもなく、更新のための財源のめどはまったく立っていない。適切な更新を怠れば、橋が落ちたり、庁舎が倒れたりする危機が確実に到来する。

 筆者は全国各地で問題の深刻さを訴えて、大半の方には認識を新たにしてもらっているが、中には、「今までも大丈夫だったからこれからも何とかなる」「危険だという情報を出すと住民が混乱するのでやめてほしい」「最後は必ず国が面倒を見てくれる」「多少税金や利用料を上げれば済むのでは」という声がある。

 一部の個人ならともかく、行政幹部や議員からもこういう声が出るのは、正直情けないと感じるが、無責任な楽観論にはわれわれ学者の責任もある。更新にはどの程度の費用が必要なのかを数字で示していないためである。客観的なデータを示せなければ冷静な議論はできない。こうした問題意識に基づいて、筆者は4月19日の内閣府PFI推進委員会で、社会資本更新投資負担の推計値を発表した。

 残念ながら老朽化に関する信頼性のあるデータは取れなかったので(これ自体大きな問題である)、現時点での社会資本ストックを50年間で平均的に更新すると仮定して算出している。対象とした社会資本は、公共施設(ハコもの)、道路(舗装打ち換え)、橋梁(きょうりょう)、上下水道(配管)。これらの現在ストック量をそれぞれ推計した後、再調達単価を掛け合わせて更新投資総額を算出している。例えば公共施設は、種類を問わず合計の延べ床面積を算出した後に、1平方メートル当たり平均27万円の建築単価を掛けている。

 その結果、社会資本更新額の総額は337兆円、50年間平均で8.1兆円と算出された。これは、現在のGDPの公的資本形成20兆円の4割に相当する膨大な金額である。この数字は国全体の数字であるが、国有財産は1割弱であり大半は公有財産すなわち地方の負担である。今のほぼ4割増しの公共投資を50年間続けられる自治体が一体どこにあるだろうか。もし、自分の地域は大丈夫で心配いらないというのであれば、その根拠を示すべきであろう。

 もちろん、現在の公共投資の中には一部更新投資が含まれている。また、今後の人口減少を考えればすべてを更新する必要性もないはずだ。さらに、純粋な公共事業ではなく民間の知恵を最大限用いるPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)方式を使うこともできる。

 上記試算では、これらの効果も織り込んで、「公共投資規模を現状並みに抑えつつ、すべての社会資本を更新できる条件」を算出した。それは、(1)社会資本量を現状より15%削減すること(2)全公共投資の46%をPPPで実施し20%のVFM(費用対効果の改善率)を出すという条件だ。

 しかし、人口が減っても、道路・橋梁・上下水道のインフラを単純に減らしてよいわけはない。ハコもの廃止という方針を打ち出した途端、政治的に動かなくなるという状況はどこにでもある。また、この条件ではPPP市場規模は毎年10兆円を超えることになるが、現在年間1兆円にも満たないPFI市場規模からすると数十倍に膨らむという前提だ。しかも、PFIでもかなり高い部類の20%というVFMが求められている。専門家でなくても、いずれも強すぎる条件に感じるはずだ。

 だが、問題は非現実的な条件ではない。非現実的な強い条件を満たさなければ解決できないほどの深刻な状況にあるという事実が問題なのだ。更新を先送りすれば問題はさらに悪化し、社会資本の崩壊した地域となるか、人件費や扶助費などを大幅に削るか、税金や利用料を大幅に引き上げるかという究極の選択を迫られることになる。

 そうならないために、国全体としても今なすべきことがある。公共投資の意思決定にあたっては、第一に社会にとって不可欠な更新投資を優先すること(更新投資優先原則)、第二に社会的な費用対効果を最大化する方法を必ず検討すること(PPP導入原則)、第三に長期的な維持補修更新計画を立てておくこと(長期計画策定原則)の3原則が必要である。これらは公共投資の在り方を変えるが、同時に、民間企業(さらにいえば地元企業)にとって知恵を十分に発揮できる魅力ある新市場となる。単なる予算削減ではなく、成長戦略の道筋がそこにあるのである。
 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)