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<2011年06月>「緩やかな震災」が忍び寄っている

 東日本大震災での教訓の一つに、震度6以下で津波被害がないにもかかわらず損壊した建築物・インフラが続出したことが挙げられる。これは、甚大な津波被害を受けた沿岸地域の出来事ではない。

 例えば、東京では、九段会館のホールの天井の一部が落下し2人死亡26人が重軽傷を負った。同会館は建築後77年の国有施設である。茨城県北浦に架かる鹿行大橋は新橋に架け替える工事中であったが完成前に崩落して1人が死亡した。建築後43年であった。他に庁舎にも多数被害が出ている。福島県庁(建築後57年)、郡山市役所(同43年)、水戸市役所(同39年)、高萩市役所(同53年)、佐野市議会棟(同48年)などは倒壊の危険が生じ使用停止にして機能を別に移した。公に報道されていない分も含めると、多数の事故が起きたり、倒壊の危険が認識されたりする事例が出ている。

 公共施設・インフラが震度6以下で使えなくなる。もしこれほどの大震災でなかったら連日大きく報道されている重大な出来事だろう。なぜ、このような事態に陥ったのか。

 周知の通り、現行の建築基準法では震度7に耐える強度が求められている。耐震基準が強化された1981年以前の物件には旧法が適用され現状維持が認められているが、それでも震度6の強度は必要であった。当初の設計施工ミスが数十年経過して事故に結び付くものではないので、今回起きた損壊の原因は老朽化と言わざるを得ない。建設時から数十年を経て老朽化した施設が、地震をきっかけに損壊したのである。

 今まで、公共施設・インフラは、何となく未来永劫(えいごう)使えると誤解されてきた。戦後復興期からバブル崩壊後の景気対策期まで投資が続いたことで、むしろ今後は公共投資は不要という誤った感覚が身に付いた。正解は逆である。近年、公共投資予算は削られる一方、更新投資に影響を与える資本ストック(土地を除く)は増加を続け日本全体で450兆円に上っている。「減少する予算で増大する需要を賄わなければならない」という深刻なジレンマに陥っている。

 老朽化とは、地震とは別に忍び寄るもう一つの危機であり、“緩やかな震災”と考えるべきだ。日本の公共投資が活発化し始めたのは東京オリンピック前の1960年代だ。これらが50年を経過する今から3年後の2014年は“東京オリンピック開催50周年”であると同時に、“インフラ崩壊元年”になってしまいかねないのである。

 予想されるシナリオはいくつかある。第1は、現状予算の範囲で更新を進めていき、予算が尽きた段階で更新が止まるシナリオだ。何も考えなければこうなる。第2は、予算を増額して資産が損壊する前に更新するシナリオだ。だが、筆者の試算では少なくとも3割増の予算を今後50年間確保する必要がある。地域によっては2倍以上不足している。福祉や教育予算を削るか大幅な増税という非現実的な前提を置く必要がある。いずれも無理だろう。

  筆者は、対策として、

  1. 施設仕分け(統廃合)
  2. 公共施設の多機能化(一つの施設を教育や福祉などの多くの機能が共同利用する)
  3. インフラ・マネジメント
  4. 長寿命化
  5. 広域連携(自治体間で公共施設やインフラを共同利用する)
  6. 不動産の有効活用(公有不動産の余剰を民間に利用してもらう)
  7. 規律ある資金調達(民間資金・市民資金を導入して財政負担を縮減する)

 の七つの方法の組み合わせしかないと考えている(拙著「朽ちるインフラ」参照)。

 実は、震災復興に当たってもまったく同じ着眼が必要である。限られた財源で安全安心を実現するには、危機発生時に役立つ公共施設・インフラを、平時に整備し維持しておく必要がある。上記の七つの方法のいずれも、従来の発想にとらわれていては先に進めない大胆な切り口だ。

 筆者は、各地で首長、議員、自治体職員と話す機会がある。大半の関係者は老朽化を認識し一歩踏みだしてくれている。だが、中には、「最後は国が面倒を見てくれるから自分から改革する必要はない」「資産を減らすと職員の雇用も減るので問題だ」「統廃合は市民が反対する」「地元企業の仕事が減るのは困る」と言う人がいる。

 本末転倒と言うしかない。本質的な問題である老朽化を最優先に考え、他の問題は個別に対処していくべきだ。本質に正面から取り組まない地域は、おそらく、長期の全体計画なしにばらばらに更新に着手し、不足分は負債で補おうとし、そして、負債が無理になった時点で更新を諦め、老朽資産を放置することになるだろう。子どもや孫の世代に、“負債もしくは危険な老朽化施設”という巨大なツケを残すことになる。これが責任ある大人の行動だろうか。

 震災後、リスクに対する意識は確実に変化しているはずだ。地域関係者は“緩やかな震災”から逃げてはならない。既に、将来の投資金額を簡易に予測するソフトも開発され全自治体が利用可能になっている。それをもとに症状を診断し処方箋を描くことは可能だ。真剣に考え行動する強い意志を持つ地域には、筆者も最大限の支援を惜しまない。 

 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)