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<2012年09月>「総論賛成各論反対」への必勝法

 財政の厳しさから公共サービスを見直そうとすると、必ず起きるのが「総論賛成各論反対」だ。学校統廃合、公共施設や上下水道の料金値上げ、保育所民営化などがスムーズに合意されることはまれだ。筆者は大学の夏季休暇を利用して、全国で自治体向けの講演会を開催しているが、職員から多く聞かれるのが「住民の『総論賛成各論反対』のために進まない」という不満の声だ。「財政が厳しいことは理解するが、この件に関しては絶対反対だ」という住民の意見が強く、結局何もできないという。

 筆者は、「総論賛成各論反対」の住民にはまったく共感しないが、進まない理由を「総論賛成各論反対」と説明する自治体職員にも同情しない。この言葉は便利だが、行政として総論が必要だと判断したのならば、住民を各論の賛成にも導く責任がある。住民に責任を転嫁しても何の解決にもならない。「せっかくいい商品を売っているのに、客が買わないのだから仕方がない」と言い訳している営業マンと大差がない。先月、米国からシティ・マネジメントの専門家を招聘(しょうへい)して話を聞いた際に、「総論賛成各論反対」を説得するいくつかのヒントを得た。米国でも「総論賛成各論反対」はあるが、十分解決可能な問題と考えられているようだった。

 第1は、総論を徹底することである。「総論賛成各論反対」を主張する人の多くは、そもそも「総論反対各論反対」ではないだろうか。誰もが個々に持っている各論の主張をそのまま受け入れれば、賛成している総論が成り立たないことは誰でも理解できるはずだ。にもかかわらず、各論を主張することは、実は「総論にも反対」、少なくとも「各論より重要でない」と考えていることを意味する。こういう場合は、総論を繰り返し徹底的に議論する必要がある。筆者の見る限り、行政は各論から入ることが多い。総論の説明すら不十分な状況で各論が始まったら、「各論反対」に終始するのもやむを得ない。

 第2に、特定の利害関係者だけと議論しないことだ。市民には二つの種類がある。そのサービスから直接利益を受ける受益者市民と、納税する負担者市民だ。今まで行政は受益者市民の意見だけ聞いて、市民の意見と称していた。これが「総論賛成各論反対」を生んだ。総論の理解を得つつ各論を進めるなら、各論の受益者市民ではなく、総論に関心を持つ負担者市民の声を聞くべきだ。そうすれば、受益者市民だけの声を聞いていたときとはまったく別の結論が得られるはずだ。兵庫県伊丹市、さいたま市では、公共施設マネジメントを推進するにあたって、負担者全体に語りかけるアンケートを採用し、多くの市民の理解を得ている。自由意見には、初めて知ったという驚きや建設的なアイデアも多数寄せられている。受益者市民自身が少数派であることを自覚する意味も大きい。

 第3に、各論には複数の選択肢を提示することだ。一つの選択肢しかなく、それが合理的でなければ、いかに総論賛成でも各論には反対せざるを得ない。そうした反対に対して、「『総論賛成各論反対』はけしからん」というのは筋違いである。以前、ある地区の図書館新設の財政計画の相談を受けた。全国の公立図書館で1回の貸し出し・返却に掛かる経費は平均的に1000円だ。このうち、人件費が500円、施設費が300円掛かっている。図書購入費は10分の1の100円にすぎない。この数字をみれば、いかに図書館派の人でも無条件に推進を主張しなくなる。

 筆者が考えた選択肢は、A「平均的な1000円の図書館」、B「指定管理者への委託で人件費を削減する850円の図書館」、C「さらに、学校の空き教室を利用する600円の図書館」、D「机を別スペースに配置し有料化する500円の図書館」、E「作らない」の五つの選択肢だ。最初はA、Eの二つしかなかったが、選択肢が追加されることによって、新しい案も出てきた。「削減した分は図書費の充実に回そう」「新刊図書の購入は要らないのではないか」「貸会議室も有料化すれば収入になる」などである。結局、この計画は行政内部で「500円でも高い」という意見が大勢を占めて、ゼロから考え直すことになった。選択肢の開示により、客観的議論が可能になった成果である。この議論が市民参加で行われれば、受益者市民でも負担者市民でもない経営者市民が誕生するだろう。

 もちろん、筆者は常に図書館建設に反対しているわけではない。財政が厳しく、子どもや孫の世代につけを回すべきでないという総論に賛成するならば、図書館であろうが、インフラであろうが、福祉であろうが、各論の見直しにも真剣に向き合うことが必要だということ、行政にはそのための客観的材料を開示してほしいということを申し上げたい。これは、東洋大学が推進しているシティ・マネジメント(自治体経営を科学的に行うこと)の実践そのものだ。まず、手始めに自治体職員も首長も議員も、「総論賛成各論反対」ということばを庁内で禁止することを提案する。逃げ道を自らふさぐことで、命がけで総論の実現に向かおうという気になるはずだ。
 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)