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<2013年01月>インフラ老朽化対策は最高の景気対策

 昨年末の中央自動車道・笹子トンネル事故はわが国のインフラの老朽化問題に光を当てた。インフラは時間がたてば必ず老朽化し、何もしなければいずれは物理的に崩壊する。1960、70年代に建設されたインフラの耐用年数が到来する今後、危険は幾何級数的に高まる。崩壊の前兆は以前からあった。東日本大震災では津波のなかった首都圏中心部でも多くの被害が出た。天井崩落で2人の方が亡くなった東京・九段会館の事故では、管理者が業務上過失致死傷容疑で遺族から警視庁に告訴されている。「老朽化しても直ちに壊れるわけではない」という考えは言い訳にもならない。自治体トップにとって老朽化対策は何をおいても最優先する義務なのだ。

 2012年衆院選後に新たに発足した自公政権は公共事業の拡大に意欲的だ。民主党政権が09年衆院選で掲げた「コンクリートから人へ」は名実ともに撤回されることになる。確かに老朽化の見落としは大きな間違いだった。だが、公共事業費の減少は最近のことではなく90年代後半以来続いている(GDPベース)。公共事業縮小はそれ自体が目的ではなく、高齢化で急増した社会保障費を工面するために行われた構造的な対策だった。社会保障費の増大が続く限り、政権交代を機にやすやすと流れを戻せるほど甘いものではないのだ。

 となると、老朽化対策を進めつつ財政負担を増やさないような工夫が求められる。この点に関しては不安がある。老朽化対策の重要性は「公共事業は重要だ」という月並みなメッセージにたやすく書き換えられ、国債を大量発行してでも公共投資を増やすべしという議論が起きかねない。今必要なことは、現在あるインフラの安全性や機能をできるだけ維持することであり、必要性の低い公共施設や道路を新設することではない。ましてや、関連産業に仕事をばらまくことではない。経済対策に関する報道によると、「老朽化インフラの点検や補修に用途を絞った上で自治体に資金を配る」(日本経済新聞8日付朝刊)とあり、ばらまき防止は想定されているようであるが、その通り実施されるかどうか監視が必要だ。

 もちろん、国の対策だけで問題は解決しない。インフラの9割を保有する地方には、国の支援を待つのではなく、自分の問題として努力する姿勢が必要だ。筆者は、老朽化対策にいくつかの方法を提唱している。中でも有効な方策が包括的予防保全マネジメントである。建築物、道路、橋りょう、水道、下水道などのマネジメントの多くは今まで事後保全で行われてきた。「道路に穴があいたらふさぐ、天井が雨漏りしたら補修する」という対症療法だ。これを、「道路に穴が開かないように、天井が雨漏りしないようにケアする」という発想に変える。予防保全費用が必要になる一方、事後保全費用は大幅に圧縮されるので、合計したコストは削減される。すでに、香川県まんのう町、千葉県我孫子市(建築物)、北海道清里町、大空町(道路・橋りょう・河川施設)、青森県(橋りょう)などで実績があり、大きな成果を上げている。

 予防保全業務のために新たに公務員を雇用する必要はなく、ノウハウを有する建設業等の民間企業にアウトソースすればよい。その際、民間にとっての魅力を高めるために、仕事を分離分割するのではなく包括化することがポイントだ。前述の例でも、北海道の2町では町内のすべての道路、橋りょう、河川施設を対象にしている。受託した民間は、仕事が大きくなった分、設備を購入し人材を育成する余裕ができる。そうして生まれたコストの削減は財政負担の圧縮につながる。

 今まで経済合理性を無視して分離分割発注が行われてきたのは、そうしないと地元の中小企業が受注できないと思われてきたからだ。だが、日々きめ細かくインフラを管理するという仕事はむしろ地元企業に有利だ。筆者は、実際にいくつかの地元企業グループの勉強会に参加してノウハウの開発を支援している。彼らは堂々と入札に参加して仕事が取れるだろう。計算では3、4割の削減が可能だ。自治体はその分他の支出に振り向けることができる。

 包括的予防保全マネジメントは、(1)現行法制度でも容易に導入できる、(2)従来の事後保全ではできなかった安全を確保できるという利点に加えて、(3)地元企業に市場と成長のチャンスを与える最高の景気対策なのである。

 著者:根本 祐二(公民連携専攻長)